天日干しの煎餅はなぜふくれる?試験場は「焼く前に残った水分」と考えたが、試作の結果は分かれた

「天日干しの煎餅はふくれが良く、やわらかい」と、米菓づくりの現場では経験的に言われてきました。では、日光そのものに何か効果があるのでしょうか。天日干し煎餅の産地がある茨城県の試験場が、この言い伝えを試作で確かめています。
結論
- 茨城県工業技術センターの試作では、天日で乾かした生地は、温風乾燥機で乾かした生地より乾燥後の水分が多く残った(冬の試作で30.2%と11.9%)。
- その後の乾燥条件をそろえると天日の方がよく膨らみ、やわらかかった。報告書は日光そのものより「焼く前の水分が多かったため」と考えた。ただし焼いた後の水分も多く(8.1%と2.6%)、やわらかさの理由は分けきれていない。
- 焼く前の水分をそろえると逆に天日の方が小さく硬く、別の年の試作では天日が最も小さかった。「日光で煎餅がふくれる」は研究で確かめられていない。
01 どんな研究か天日干しの効果はどうやって確かめた?
茨城県工業技術センターの中川らは、同じうるち米の生地を、天日と温風乾燥機の2通りで一次乾燥し、残りの工程をそろえて焼き、膨らみ(比容積)と硬さを比べました。
中川力夫・宇津野典彦 / 茨城県工業技術センター(平成17・18年度)[1][2]
米を洗って浸し、粉にして蒸し練り、型抜きした生地を、天日または温風乾燥機で一次乾燥した。一晩ねかせた後、温風乾燥機で二次乾燥して焼いた。比容積は5枚の体積と重さから、硬さは10枚を細い棒で押して割れたときの力から求めた。
対象: 加工用うるち米(第2報は茨城県産ミルキークイーン)の試作 / 限界: 査読のない試験場の報告で、試作は各報告で1〜2回。統計的な比較は書かれていない。
試験は2つの比べ方で行われました。1つは「二次乾燥で、焼く前の水分を同じくらいにそろえて焼く」。もう1つは「二次乾燥の条件(時間・温度)を同じにして、焼く前の水分はそろえずに焼く」です。どちらの比べ方をしたかで、結果が逆になりました。
02 わかった数字天日干しの煎餅は本当に大きく膨らんだ?
二次乾燥の条件をそろえた試作では天日の方が膨らみ(3.58と3.34 ml/g)、硬さは約6割でした。焼く前の水分をそろえた試作では、天日の方が小さく硬くなりました。
| 試作 | 焼く前の水分 天日 / 機械 | 比容積 ml/g 天日 / 機械 | 硬さ kg 天日 / 機械 |
|---|---|---|---|
| 第1報 夏(焼く前の水分をそろえた) | 10.5% / 9.6% | 2.44 / 3.20 | 5.10 / 4.71 |
| 第1報 冬・第2報(同上) | 11.3% / 11.7% | 2.77 / 3.18 | 4.84 / 4.61 |
| 第2報(二次乾燥の条件をそろえた) | 21.1% / 12.9% | 3.58 / 3.34 | 2.67 / 4.61 |
| 平成20年度(二次乾燥は水分13%を目標に80℃) | 13.86% / 8.53% | 3.70 / 4.10 | 記載なし |
出典[1][2][3]の表から作成。第1報の冬と第2報の1つ目の試験は同じデータ。平成20年度の試作では、人工太陽照明灯で乾かした生地の比容積が4.45で最も大きかった。
第2報の考察は、天日干しの生地は一次乾燥後の水分が多いため、二次乾燥を同じ条件にすると焼く前の水分も多く残り、それで膨れが良く、やわらかくなる、というものです[2]。乾燥法による米のデンプンの糊化の性質の差は小さく、乾燥後に残るでんぷん分解酵素(α-アミラーゼ)の活性にも差はありませんでした。
ここで注意したい点があります。天日の煎餅は、焼いた後の水分も8.1%と、機械乾燥の2.6%より多く残っていました。やわらかく感じた理由が「よく膨らんだから」なのか「水分が残っていたから」なのかは、この試作では分けられていません。水分が残った煎餅はパリパリ感を失いやすい、という研究もあります(しけた煎餅は乾かせば戻る?)。
さらに平成20年度の試作では、焼く前の水分は天日の方が多かったのに、比容積は天日が最も小さくなりました[3]。報告書は、見た目では乾燥法による膨らみの差はよくわからず、食味もあまり違わなかった、と書いています。焼いた後の細菌の数は3つの乾燥法とも1gあたり100個以下で、乾燥法による明確な差はありませんでした。
03 煎餅作りへの使い方天日干しを家で試すなら何を比べる?
天日か室内かより、焼く前の生地の重さ(水分)を記録して比べるのが先です。日光の効果を見たいなら、焼く前の重さをそろえて比べます。
焼く前の重さをそろえて、天日と室内乾燥を比べる
同じ生地を半分ずつ天日と室内の風で乾かし、焼く前に同じ重さまで乾かしてから焼きます。これで日光そのものの効果に近づけます。
目安 各5枚、焼く前の重さの差は1割以内
焼く前の水分だけを変えて比べる
室内乾燥のまま、乾かす時間を変えて「重め」「軽め」の2条件を作り、同じように焼きます。膨らみの差が、乾燥法より水分で説明できるかを確かめます。
目安 2条件×5枚、比容積と割れる硬さを記録
焼いた後の重さとしけ方も記録する
焼き上がり直後に重さを測り、1時間後・1日後の食感を記録します。やわらかい煎餅が、水分が残っているだけでないかを確かめます。
目安 直後・1時間後・1日後の3回
焼く前の工程で膨らみが変わる仕組みは煎餅の膨らみは焼く前に決まる?で読めます。組み合わせの目安は組み合わせツールで確かめられます(天日は「まだわからない」と表示します)。
04 まだわからないこと天日干しは味や香りを良くする?
わかっていません。茨城県の試作は膨らみと硬さが中心で、味と香りは平成20年度に簡単に比べただけです。日光の光そのものの効果を確かめた研究も見つかりませんでした。
- 試作は各報告で1〜2回ずつで、天日の日の天気・気温・風も一定ではありません。結果が試作ごとに入れ替わったのは、そのためかもしれません。
- 天日の煎餅がやわらかかった理由は、膨らみと焼いた後の水分のどちらによるのか分けられていません。
- もち米の煎餅で天日干しを比べた研究は見つかりませんでした。
- 天日と温風乾燥機では、乾く速さも違ったはずですが、試作では速さは測られていません。乾燥が速いほど生地が急に固まり膨らみを妨げると考えられる、という研究はあります[4]。乾燥温度が高いほど生地の中と外の水分の差が大きくなる、という研究もあります[5]。
- 平成20年度の「人工太陽光でも概ね同等の品質」は、膨らみ・細菌数・見た目と味の簡単な比較にもとづく結論です。
05よくある質問
天日干しの煎餅はやわらかいって本当?
茨城県の試作では、二次乾燥の条件をそろえたとき天日の方がやわらかくなりました(硬さ2.67kgと4.61kg)。ただし焼いた後の水分も天日の方が多く(8.1%と2.6%)、水分が残っていたことの影響と分けられていません。焼く前の水分をそろえると、天日の方が硬くなりました。
日光(紫外線)が煎餅を膨らませるの?
確かめられていません。茨城県工業技術センターの報告書は、日光そのものより、一次乾燥後に生地の水分が多く残ることで説明できると考えました。人工太陽照明灯で乾かした試作でも、天日や機械乾燥と概ね同等の品質でした。
天日干しは衛生面で心配?
茨城県の平成20年度の試作では、焼いた後の細菌の数は天日・機械・人工太陽光のどれも1gあたり100個以下で、乾燥法による明確な差はありませんでした。報告書は、乾燥法より焼いた後の管理の方が影響が大きいのではないかと考えています。
出典
- 中川力夫, 宇津野典彦 (平成17年度). 太陽光による米菓の成分変化等に関する研究. 茨城県工業技術センター研究報告, 第34号. https://www.itic.pref.ibaraki.jp/publication/doc/research/h17/vol34-05.pdf
- 中川力夫, 宇津野典彦 (平成18年度). 太陽光による米菓の成分変化等に関する研究(第2報). 茨城県工業技術センター研究報告, 第35号. https://www.itic.pref.ibaraki.jp/publication/doc/research/h18/vol35-05.pdf
- 中川力夫, 関口恭史, 石田晃, 小池志津子 (平成20年度). 米菓製造における天日乾燥代替手法と醤油粕利用法の研究. 茨城県工業技術センター研究報告, 第37号. https://www.itic.pref.ibaraki.jp/publication/doc/research/h20/vol37-34.pdf
- 西谷偉, 布目知広, 久松眞 (2005). 粳米菓の膨化に影響する生地性状と乾燥速度の関連性について. Journal of Applied Glycoscience, 52(2), 129–132. https://doi.org/10.5458/jag.52.129
- 西谷偉, 布目知広, 中井雅之, 久松眞 (2006). 粳米菓膨化に影響する生地中の水の濃度分布と乾燥の関連性. 日本食品科学工学会誌, 53(2), 96–102. https://doi.org/10.3136/nskkk.53.96

