工程

煎餅の膨らみは焼く前に決まる?蒸し・練り・乾かし方で膨らみが変わった研究

約7分で読めます / 主役の研究: Takeiら 2019(亀田製菓)

研究の確かさ ★★☆ 中論文3本・試験場の報告1件を照合
皿に盛った煎餅と、割って断面の気泡が見える煎餅
Photo: DryPot / CC BY 2.5 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された論文と試験場の報告書をAIが開いて読み、数字を照合して整理しました(商品の紹介はしていません。出典は末尾)。

煎餅の出来は、焼き方で決まると思われがちです。けれど米菓の研究を読むと、膨らみの多くは、網やオーブンに入れる前の「蒸す・練る・乾かす」で決まっていることが見えてきます。この記事では、亀田製菓の研究所の研究を主役に、焼く前の工程と膨らみの関係を読みます。

結論

  1. 亀田製菓の研究では、蒸し時間と練り時間が長い生地ほど、焼いた煎餅の膨らみ(比容積)が大きくなった。
  2. 焼く前の生地のやわらかさ(粘弾性)から膨らみを予測でき、両者の関係は R² 0.79超と強かった。乾燥を急ぐと膨らみを妨げると考えられる、という別の研究もある。
  3. ただし家庭の蒸し器やオーブンで同じ大きさの差が出るかは、まだ調べられていない。

01 どんな研究か亀田製菓は煎餅の膨らみをどう調べた?

亀田製菓の研究所のTakeiらは、蒸し時間と練り時間を変えた9種類の米の生地を作り、生地のやわらかさと、焼いた煎餅の膨らみ・硬さ・断面の気泡を比べました。

Takei R ほか / 亀田製菓 Rice Research Center(2019)[1]

蒸し時間を5・30・60分、練り時間を5・10・15分に変えて生地を作った。蒸しと練りが長いほど、生地は流れやすい性質(tan δ が大きい)になり、焼いた煎餅の比容積が大きく、断面の気泡の壁が薄くなった。

対象: 米菓の製造工程で作った米の生地と、その米菓 / 限界: 要旨には米の品種や焼き方の条件が書かれておらず、家庭の道具での再現は調べていない。

比容積は「1gあたりの体積」のことです。同じ重さでかさが大きいほど、よく膨らんだ軽い煎餅になります。この研究のねらいは、何日もかかる米菓づくりの早い段階で、出来上がりを予測することでした。著者らは、生地の粘弾性を測れば煎餅の質を予測できると結論しています。

乾かし方については、米菓・和菓子の会社(マスヤ、和菓子の万寿や)と三重大学の西谷らが、うるち米の煎餅で調べています[2]。生地の固まり方は最初の乾燥(一次乾燥)でほぼ決まり、水分が約25%を下回るとほとんど変わらなくなりました。水分の抜ける速さが速いほど生地は急に固まり、膨らみを妨げると考えられた、と報告しています。同じグループの別の研究では、乾燥温度が高いほど生地の中心と表面の水分の差が大きくなり、均一でやわらかく膨らませるには低温の乾燥が効果的と考えられました[3]。

02 わかった数字焼く前の工程で、膨らみはどれくらい変わる?

生地のやわらかさと膨らみの関係は R² 0.79超と強く、焼く前の水分をそろえても、一次乾燥の方法が違うだけで比容積が約1.15〜1.3倍違った試作もあります(各1回の試作)。

R² 0.79超生地の tan δ と煎餅の比容積の関係の強さ(Takeiら 2019)
9種類蒸し3段階×練り3段階で作り分けた生地(同上)
約25%これより水分が下がると生地の性質がほぼ変わらなくなった(西谷ら 2005)
2.44 対 3.20焼く前の水分をそろえた夏の試作で、天日乾燥と機械乾燥の比容積 ml/g(茨城県 平成17年度)

最後の数字は、茨城県工業技術センターの試作です[4]。一次乾燥を天日と温風乾燥機で分け、焼く前の水分をほぼそろえて(夏10.5%と9.6%、冬11.3%と11.7%)焼きました。それでも比容積は夏2.44と3.20、冬2.77と3.18で、機械乾燥のほうが大きく膨らみました。焼く直前の水分が同じでも、それまでの乾かし方の違いが膨らみに残った、と読めます。天日干しについては天日干しの煎餅はなぜふくれる?でくわしく読みます。

研究変えた条件膨らみへの影響
Takeiら 2019蒸し時間・練り時間長いほど比容積が大きい
西谷ら 2005一次乾燥の速さ速いほど膨らみを妨げると考えられた
西谷ら 2006乾燥温度・生地の厚さ高温ほど中と外の水分差が大きい。薄いほど均一
茨城県 平成17年度一次乾燥の方法(天日・機械)焼く前の水分が同じでも比容積が違った

西谷ら 2005・2006 は膨らみそのものより、生地の固まり方と水分の分布を調べた研究です。

03 煎餅作りへの使い方手作りで膨らみを確かめるには何を変える?

焼き方より先に、蒸し時間と一次乾燥の速さを1つずつ変えて比べるのが、研究から見た近道です。膨らみは「重さ」と「体積」を測ると比べられます。

1

蒸し時間だけを変えて焼き比べる

練り時間・厚さ・乾燥・焼き方はそろえ、蒸し時間だけを2〜3段階にします。焼いた後、5枚の重さと体積を測って比容積(体積÷重さ)を出します。体積は、容器に米や小さなビーズを満たし、煎餅を入れる前後で増減した量から求めます(茨城県の試作と同じ考え方)。

目安 1条件5枚、2回くり返す

2

一次乾燥を急がない

室温で風を当てる乾燥と、オーブンの低温乾燥を比べます。乾燥前後の重さを記録し、どれだけ水分が抜けたかを重さで追います。表面だけ先に固まっていないか、焼いた後のひび割れも見ます。

目安 乾燥の時間と重さを30分ごとに記録

3

生地を薄めにして、乾燥ムラを減らす

薄い生地ほど中まで水分がそろいやすいという研究があります[3]。同じ生地を2つの厚さに伸ばし、膨らみのムラ(一部だけ大きくふくれる)を写真で比べます。

目安 厚さ2種類×5枚

条件をいくつも同時に変えると、どれが効いたのかわからなくなります。変えるのは1回に1つだけにしましょう。組み合わせの目安は組み合わせツールでも確かめられます。

04 まだわからないこと焼く前の工程だけで膨らみは決まりきる?

決まりきるとまでは言えません。焼き温度と膨らみの関係を直接調べた日本の米菓の公開論文は、今回の調べでは見つかりませんでした。

  • Takeiら 2019 の要旨には米の品種や焼き方が書かれていません。うるち米ともち米で同じ傾向かはわかりません。
  • 硬さは単純ではありません。蒸し5分・30分の生地では練るほど硬くなり、蒸し60分の生地では逆に練るほどやわらかくなりました。
  • 家庭の蒸し器・オーブン・焼き網で、工場と同じ大きさの差が出るかは調べられていません。
  • 西谷ら 2005 の「乾燥が速いと膨らみを妨げる」は、生地の性質の測定からの推論で、膨らみを直接比べた結果ではありません。

組み合わせツールで試す研究一覧を見る

焼いた後の食感がどう落ちていくかは、しけた煎餅は乾かせば戻る?で読めます。

05よくある質問

煎餅を膨らませるには、焼く温度を上げればいい?

研究からは言えません。今回読んだ研究で膨らみと強く関係していたのは、焼く前の蒸し・練り・乾燥でした。焼き温度と膨らみの関係を直接調べた日本の米菓の公開論文は見つかっていません。焦げるほど強く焼かないことも大切です。

比容積とは何ですか?

1gあたりの体積(ml/g)です。同じ重さでかさが大きいほど、よく膨らんだ軽い煎餅です。体積は、容器を米や小さなビーズで満たし、煎餅を入れる前後の差から求められます。

一次乾燥の後に生地を寝かせるのはなぜ?

米菓の標準的な工程には一次乾燥の後の「ねかせ」がありますが、その効果を直接比べた研究は今回見つかりませんでした。西谷ら(2006)は、薄い生地なら乾燥で水分が均一になりやすく、ねかせずに続けて乾燥できる可能性を挙げています。

出典

  1. Takei R, Maruyama K, Washio H, Watanabe T, Takahashi T. (2019). Effects of rheological properties of rice dough during manufacture of rice cracker on the quality of the end product. Journal of Texture Studies, 50(2), 139–147. https://doi.org/10.1111/jtxs.12380
  2. 西谷偉, 布目知広, 久松眞 (2005). 粳米菓の膨化に影響する生地性状と乾燥速度の関連性について. Journal of Applied Glycoscience, 52(2), 129–132. https://doi.org/10.5458/jag.52.129
  3. 西谷偉, 布目知広, 中井雅之, 久松眞 (2006). 粳米菓膨化に影響する生地中の水の濃度分布と乾燥の関連性. 日本食品科学工学会誌, 53(2), 96–102. https://doi.org/10.3136/nskkk.53.96
  4. 中川力夫, 宇津野典彦 (平成17年度). 太陽光による米菓の成分変化等に関する研究. 茨城県工業技術センター研究報告, 第34号. https://www.itic.pref.ibaraki.jp/publication/doc/research/h17/vol34-05.pdf